現代人のための放射線生物学

小松 賢志

A5並製・350頁・税込 3,780円
ISBN: 9784814000845
発行年月: 2017/03
在庫あり

内容

人の体には修復機構がある。しかしそれは万能ではない。福島の事故から5年を経ても、根拠のない楽観論の一方で過剰な恐怖が語られることがある。放射線を正しく評価するには、それが人体に与える影響を分子レベルから理解することが必須だ。「放射線の実体」から始め、生物影響・医学利用・環境放射線・放射線防護・原子力災害までを幅広く解説。

目次

はじめに

第1部 放射線の実体

Chapter 1 放射線の性質
1.1 さまざまな放射線の発見
   放射線と放射能の発見/放射線の種類と透過力の違い
1.2 電離のしくみと放射線の単位
   放射線が電離を起こすしくみ/放射線と放射能の単位
1.3 放射線の性質を利用した線量計
   電離を利用する測定器/半導体を用いた測定器
   シンチレーションを利用する測定器
   ガラスの発光を利用する測定器/バックグランドと計数効率

Chapter 2 原子核反応の利用
2.1 放射性核種の自然崩壊
   原子核崩壊の種類と放射性同位元素
    一定の半減期でおこる原子核の自然崩壊
2.2 原子力発電のしくみと廃棄物処理
   原子核分裂を人工的に起こす/原子力発電のしくみ
   核燃料サイクルとは/廃棄物処理の問題
2.3 軍事利用された原子核反応
   原子爆弾に利用された原子核分裂
   水素爆弾に利用された核融合
2.4 放射線の産業と学術利用
   さまざまな工業利用/さまざまな農業利用
   年代測定への利用
Q&A

第2部 放射線と人体

Chapter 3 細胞への放射線作用
3.1 放射線によるDNA鎖の切断
   放射線の生物作用の時間経過
   直接効果と間接効果で起こるDNA損傷
   DNA 鎖切断端の化学型
3.2 生物影響の評価法と数式モデル
   増殖死をコロニー法で測る/SLD回復は緩照射効果の指標
   細胞生存率を数式で表す
3.3 生物影響を修飾する諸因子
   放射線防護剤と緩和剤で障害を減らす
   酸素が放射線作用を強める
   放射線の種類で異なる線エネルギー付与(LET)効果

Chapter 4 放射線を防御するDNA修復
4.1 DNA二重鎖切断の二つの修復経路
   DNA二重鎖切断修復の研究と放射線高感受性細胞
   放射線DNA修復は相同組換え修復と非相同末端再結合の2種類
4.2 放射線照射直後に起こる細胞反応
   細胞増殖を一時停止させるチェックポイント
   DNA構造を弛めるクロマチン再編成
   修復よりも細胞死を進めるアポトーシス
4.3 DNA修復がもたらす副作用
   細胞周期依存性とSLD回復/放射線突然変異
解説 1 ─細胞に残るDNA二重鎖切断の爪痕

Chapter 5 組織・臓器の放射線障害
5.1 放射線の確定的影響と確率的影響
   放射線障害は確定的影響と確率的影響に区分される
   組織により変わる放射線感受性/放射線障害の発症経過
5.2 組織特有なさまざまな放射線障害
   皮膚の障害/精巣と卵巣の障害/眼の障害
   その他
5.3 死に結びつく放射線障害と治療例
   被ばく線量と生存期間の関係/骨髄死/腸死
   中枢神経死/重篤な被ばく事故での治療例

Chapter 6 放射線による発がん
6.1 自然発がんのしくみと放射線
   がん遺伝子の活性化とがん抑制遺伝子の不活化
   自然に起こるがん化のしくみ/放射線発がんのしくみ
6.2 ヒトの放射線発がん頻度
   有用な疫学資料/白血病の発生頻度
   固形がんの発生頻度
6.3 放射線発がんを左右する諸因子
   被ばく年齢の影響/緩照射および放射線の種類
   その他の発がん関連因子
6.4 放射線発がんリスクとLNT仮説
   LNT仮説とは/放射線リスクの過小評価を避ける
解説 2 ─ DNA二重鎖切断がヒトの発がんを引き起こす確かな証拠

Chapter 7 放射線による先天異常
7.1 放射線に敏感な胎児期
   着床前の胚死/器官形成期の奇形/胎児期の小頭症
7.2 遺伝的影響が発生するしくみ
   放射線による染色体異常/単一遺伝子によるメンデル遺伝
   さまざまなヒト遺伝性疾患
7.3 予想外に低い遺伝的影響リスク
   遺伝的影響リスクの推定方法/マウスの倍加線量を求める
   放射線の遺伝的影響リスクの計算値
   原爆生存者の遺伝的影響は確認できてない
   体内被ばくによる発がんと継世代影響の可能性
Q&A

第3部 放射線と医療

Chapter 8 がんを放射線でなおす
8.1 がん治療の放射線生物学
   癌治療に有効な放射線照射/低酸素細胞と放射線治療
   がんの放射線感受性/正常臓器の耐容線量と治療効果比
8.2 がんと正常臓器の感受性を変える
   低酸素細胞を減少させて放射線感受性を上げる
   抗がん剤を併用する/正常臓器の障害を減らす
8.3 がん治療に優れた放射線照射法
   高エネルギーX線を用いた三次元原体照射法
   強度変調放射線療法/定位放射線療法
   陽子線治療法/重粒子線治療法/組織内照射法
   ホウ素中性子捕捉療法

Chapter 9 診断に使われる放射線
9.1 X線を用いるさまざまな診断法
   X線写真撮影の原理/X線発生装置/X線の検出
   マンモグラフィ/X線CT
   インターベンショナル・ラジオロジー
9.2 放射性核種を用いる診断法
   単光子放射断層撮影法/陽電子放射断層撮影法
9.3 放射線診断で受ける被ばく線量
Q&A

第4部 生命とDNA修復

Chapter 10 DNA塩基修復と生命
10.1 太陽紫外線と喫煙からDNAを守る
   太陽紫外線によるDNA塩基損傷
   喫煙によるDNA塩基損傷 /ヌクレオチド除去修復
   損傷乗越えDNA合成/皮膚がんと色素性乾皮症
10.2 酸素毒性からDNAを守る
   酸化によるDNA塩基損傷/塩基除去修復
   発がんと塩基除去修復
10.3 飲酒からDNAを守る
   飲酒によるDNA塩基損傷/DNA 鎖架橋とファンコニ貧血
10.4 DNAの複製ミスを正す
   誤ったDNA塩基の取り込み /ミスマッチ修復
   家族性大腸がんとミスマッチ修復
10.5 放射線によるクラスターDNA損傷
   酸素ラジカルによりDNA塩基損傷が作られる
   放射線に特有なクラスターDNA損傷

Chapter 11 放射線DNA修復と生命
11.1 DNA二重鎖切断修復の起源
   地球生物と太陽紫外線/地球生物と放射線
   DNA二重鎖切断修復タンパク質の起源
   放射線以外の原因によるDNA二重鎖切断
11.2 進化を促進したDNA修復系
   突然変異の起源としての損傷乗越えDNA合成
   相同組換えと遺伝的多様性
11.3 健康維持に働く修復タンパク質
   免疫多様性と非相同末端再結合
   発がんバリアーと放射線損傷シグナル
   テロメア維持とATM
   ATM による抗酸化ストレスと糖尿病抑制
Q&A

第5部 原子力災害と放射線防護

Chapter 12 福島第一原子力発電所の事故
12.1 事故の経過と指摘された問題点
   緊急冷却装置とベントの構造/事故の経緯
   事故で明らかになったいくつかの問題点
12.2 周辺地域の汚染状況と食品規制
   放出された放射性物質/外部放射線量と環境内での動き
   食品の規制/食品中セシウム137の規制値の計算例
12.3 被ばく線量と健康調査
   住民の被ばく状況 /住民の健康調査
   放射線作業者の被ばく状況と健康調査
解説 3 ─セシウム137の生物濃縮

Chapter 13 世界の原子力災害と関連事故
13.1 原子爆弾と核実験による被ばく
   広島・長崎の原爆被爆 /ビキニでの核実験
   中国での核実験 /セミパラチンスクでの核実験
13.2 福島以外の原子力発電所事故
   チェルノブィリ原子力発電所事故
   スリーマイル島原子力発電所事故
13.3 核燃料処理施設での被ばく
   セラフィールド原子力施設/ハンフォード原子力施設
   マヤック核物質製造施設/東海村JCO臨界事故

Chapter 14 身の回りに存在する放射線
14.1 我々を取り巻く自然放射線源
   自然放射線源と人工放射線源/大地中の放射線源
   空気中の放射線源/食べ物と体内の放射線源
   宇宙放射線/さまざまな消費財からの被ばく
14.2 自然および人工放射線からの職業被ばく
   鉱山での自然放射線からの被ばく
   航空機搭乗に宇宙放射線からの被ばく
   人工放射線源からの被ばく
14.3 世界の高放射線地域と影響調査
   世界の高放射線地域/住民の放射線影響調査

Chapter 15 放射線を管理する
15.1 放射線被ばく防護の基本法則
   外部被ばくの特徴と防護の基本原則
   内部被ばくの特徴と防護の基本原則
15.2 体内の放射能を除去する薬剤
   放射性ヨウ素の取り込みを少なくするヨウ化カリウム
   放射性セシウムの除去に有効なプルシアンブルー
15.3 放射能汚染地域での生活の工夫
   家屋周辺での除染方法
   被ばくを避ける家庭での対策
15.4 放射線被ばの規制と核軍縮の歴史
   ICRPの基本的な考え方と勧告
   職業被ばく線量限度の歴史/公衆の線量限度の歴史
   我が国の放射線障害防止法/世界の核軍縮の動向
Q&A

参考図書
放射線の歴史
索 引

コラム
Column 1 もう一つのポアンカレ予想
Column 2 半減期の十進法表記
Column 3 ラジカルとオゾンホール
Column 4 遺伝子命名法とタンパク質の呼ひ?方
Column 5 象はなぜがんにならないか
Column 6 幹細胞/ES細胞/iPS細胞
Column 7 白血病と骨髄
Column 8 がんと癌
Column 9 我が国のがん発生
Column 10 ビートルズとX線CT
Column 11 日本人に飼い慣らされた毒素菌
Column 12 同時代の先駆者ダーウィン/メンデル/ミーシャ
Column 13 我が国での内部被ばくの最高値
Column 14 スパイとポロニウム210
Column 15 ダイアルペインターの悲劇

プロフィール

小松 賢志(こまつ けんし)

1949年 秋田県生まれ
京都大学名誉教授.医学博士.
東北大学大学院医学研究科博士課程修了
広島大学原爆放射線医科学研究所教授
京都大学放射線生物研究センター教授,同センター長を歴任
専攻 放射線のDNA修復学
主要業績 Nature (420: 93-98, 2002), Nature Genetics (19: 179-181, 1998), Molecular Cell (41: 515-528, 2011; 43: 788-797, 2011)