プリミエ・コレクション3
「語り合い」のアイデンティティ心理学

大倉 得史

A5上製・420頁・税込 4,104円
ISBN: 9784876985654
発行年月: 2011/06
在庫あり

書評

『人環フォーラム』No.30、45頁、評者:西村直氏

内容

人間は青年期にどのようなプロセスを経てアイデンティティを確立するのか。自らも青年期を悩み苦しんだ著者は,この模索の中から「語り合い」法にたどり着き,その実践を通じて心理学の質的分析を深めてきた。5人の青年たちとの真摯な語り合いが紡ぎ出す揺らぎ,混乱,拡散,収束——生きた対話の実践から新たな知を切り拓く。

目次

プロローグ アイデンティティへのあくなき問い
 アイデンティティを研究するとは,一体何を研究することなのか?
 当初の発想エリクソンをラカンで補う
 生じてきた問題一般構造から具体性・内容へ
 本書の構成とその試論的価値外部と内部をメビウス的につなぐ「境遇ウムヴェルト」に,  内容を流し込む

第1章 先行アイデンティティ研究の批判的検討
 アイデンティティの理論的側面についての研究
 アイデンティティ・ステイタス研究

Case Study No.1 ある対照的な2人の青年の独特なありようについて
【問題・目的・方法】
【事例1】須賀の場合
 1)須賀との出会い
 2)「語り合い」の始まり
 3)私自身の体験とともに
 4)批判
 5)価値・規範の崩壊
 6)「自分」の意味
【事例2】 川田の場合
 1)川田との出会い
 2)彼の来歴
 3)「語り合い」のぎこちなさ
 4)川田の強さ
 5)川田と私の相違
【考察】

 統計的実証研究
 一人の人間の生の意味を考えるためにヒントとなる諸研究

第2章 アイデンティティの意味を問う
 アイデンティティの直観的把握について,およびこの概念の規定様式について
 私の直観的把握私が私であるということを支える「基盤」としてのアイデンティティ
 現象学的精神病理学諸説を参照する際に,まず問題とされる事柄について
 アイデンティティ拡散の正常性ないしは病理性に対するエリクソンの見解
    
Case Study No.2 私たちの拡散体験
 1)私の拡散体験
 2)坂口
 3)間宮
 4)「どこでもないような場所」で
 5)〈居住自己〉
 6)〈投げ出し—投げ出され〉体験

 「基盤」を明らかにするためには,社会論・文化論が必要である
 モラトリアム人間の時代
 小此木理論への疑問
 成熟したモラトリアム人間はアイデンティティ人間である
 モラトリアムという用語にも,アイデンティティという用語にも,それなりの意義がある
 アイデンティティの意味の流動性
 現代モラトリアム社会における青年の「全生活空間」
 虚構のような現実と現実のような虚構が構成する「全生活空間」
 私が私であるということを支える無意識の「他者」ラカンより
 モラトリアム青年がモラトリアム成人になるとは一体どういうことなのか
 本章のまとめモラトリアム社会でこそ際立つアイデンティティ問題
    
Case Study No.3 拡散状態の深みから須賀という人物
 1)完全主義的傾向と時間感覚の拡散
 2)優越感と劣等感
 3)異性の問題
 4)各概念の整理
 5)フリーターとしてのアイデンティティ?

第3章 エディプス・コンプレックスとアイデンティティ
 エディプス・コンプレックス論への入口
 鏡像段階論
 言語世界への参入象徴界による去勢
 対象a
 アイデンティティを支える対象a自己規定成立の条件
 ラカン理論の特質とその射程
 阿闍世コンプレックス
 「甘え」理論特に「心理的なもの」と「言語的なもの」の相互的規定性という観点から
 異質な「言葉」概念発達心理学と精神分析学
 世界の構造と欲望の道筋は他者によって規定される
 青年期には〈かつての自分〉が復活し,欲望の循環不全が起こるときがある
 「跳躍」を決定する諸変数
    
Case Study No.4 拡散はいかに収束していくのか
 1)私の「せきたて」体験
 2)坂口と間宮
 3)目標はいかにして成立したのか?
 4)「親そのまんま」を脱するために
 5)「親」との和解
 6)他者たちと共に
 7)須賀の変容
 8)恋人との関係
 9)〈他の場〉の〈否認〉はなぜ起こるのか
 10)〈否認〉の積極的意味

第4章 青年性とは何か
 「跳躍」に肉づけされるストーリー
 「青年性」とは何か特にアイデンティティ拡散の観点から
    
Case Study No.5 混乱しながらも〈否認〉状態に至らない青年
 1)緑川との出会い
 2)初回の語りから
 3)彼女と私の同質性,異質性
 4)理論的考察

第5章 「語り合い」の方法論
 「語り合い」が必要になってきた理由
 物語論的ナラティブアプローチとの比較
 「語り合い」法がまず第一に目指す了解について
 体験を言葉にすることの困難と,それでも言葉が体験を伝え得る可能性について
 言葉の記号的側面(シニフィアン)と意味的側面(シニフィエ)の関係
 「語り合い」は「共通の言語世界」を作り上げる作業である
 了解の保留について
 孤独感に対してまだ付け加えるべきことがあった
 「かつての私」と「今の私」をつなぐ「物語」はある「真理」を射抜いていなければならない
 生きられる現実性(イメージ)とそれを支える事実性
 イメージの再体制化について
 「物語」が単に変容したという以上に,了解が深まったのである
 完全な了解が不可能な中での方法論,およびそれが目指す「真理」観
 私は「物語」のアクチュアリティにいかにして迫れるのか
 「語り合い」法を支える研究観
 〈私〉と「私」を切り分けることは不可能であるが,しかし,それでも〈私〉は記述する
 「語り合い」法は「間主観性」の分析を通して他者の内面生活に関する資料を得る
 方法論の総括間主観的アプローチとしての「語り合い」

第6章 最終考察さらなる探究のために
 全体の振り返り
 アイデンティティ拡散とは何か
 本書で目指されたものと「自我」概念
 主体という概念
 他者関係とアイデンティティ
 本書を超えたアイデンティティの問いへ
 何が「強い」のか
 「病理的なアイデンティティ拡散」と「正常なアイデンティティ拡散」との境について
 「語り合い」法の検討,検証をしていく必要がある

文 献
索 引

プロフィール

大倉 得史(おおくら とくし)
1974年東京都生まれ。京都大学総合人間学部卒業,大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。臨床心理士。九州国際大学講師・准教授を経て,現在京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。専門は発達心理学。主な著書に『拡散 diffusion「アイデンティティ」をめぐり,僕達は今』(ミネルヴァ書房,2002),『語り合う質的心理学体験に寄り添う知を求めて』(ナカニシヤ出版,2008),『大学における発達障害者支援を考える』(中川書店,2009)など。