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環境人間学と地域

「ほっとけない」からの自然再生学

コウノトリ野生復帰の現場

菊地 直樹

A5上製・334頁

ISBN: 9784814000821

発行年月: 2017/03

  • 本体: 3,400円(税込 3,740円
  • 在庫あり
 
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内容

2005年9月,絶滅から34年の時を経て,コウノトリが再び人里に舞い降りた。「里の鳥」コウノトリの野生復帰は,地域の人びとと自然との間にどのような関係の変化をもたらしたのか。生態学的観点からの自然再生にとどまらず,人と自然の関わりを創り直す包括的再生を目指したコウノトリの野生復帰の取り組みを,当事者の視点から振り返る。

書評

『野鳥』2017年7月号 No.816、33頁

プロフィール

菊地直樹(きくち なおき)
1969年生まれ。
兵庫県立大学自然・環境科学研究所講師/兵庫県立コウノトリの郷公園研究員を経て、2013年から総合地球環境学研究所准教授。
専門は環境社会学。
主な著書に、『蘇るコウノトリ―野生復帰から地域再生へ』(東京大学出版会2006年)、『但馬のこうのとり』(池田啓と共著但馬文化協会2006年)、『自然の社会地理』(分担執筆 海青社2013年)、『なぜ環境保全はうまくいかないのか―現場から考える「順応的ガバナンス」の課題』(分担執筆新泉社2013年)、『野生動物の餌付け問題―善意が引き起こす?生態系撹乱・鳥獣害・感染症・生活被害』(分担執筆地人書館2016年)、『どうすれば環境保全はうまくいくのか―現場から考える「順応的ガバナンス」の進め方』(分担執筆新泉社2017年)など。

目次

「環境人間学と地域」の刊行によせて
はじめに

序章 自然をほっとけない
 序―1 コウノトリと出会う
 序―2 野生復帰に参加する
   (1)コウノトリ
   (2)「里の鳥」の野生復帰
 序―3 地域住民と出会う
   (1)コウノトリを聞き取る
   (2)大きな声と小さな声
 序―4 矛盾と折り合う
 序―5 本書の構成

第1章 コウノトリを野生復帰する
 1―1 保護から絶滅、そして野生復帰
 1―2 野生復帰に向けた総合的な取り組み
   (1)コウノトリ行政
   (2)学問を坩堝にする野生復帰研究
   (3)多様な主体の連携
   (4)環境創造型農業の開発
   (5)自然再生の取り組み
   (6)コウノトリの放鳥と科学的研究
 1―3 自然とのかかわりの創出
   (1)市民モニタリング
   (2)地域住民による小さな自然再生
   (3)コウノトリツーリズム
 1―4 多元的価値の創出

第2章 包括的に再生する
 2―1 なぜ自然再生なのか
   (1)自然を再生する時代
   (2)生態系観の変化
   (3)持続可能な地域形成に向けた自然再生の政策化
 2―2 自然再生の対象
   (1)生物多様性
   (2)生物多様性と文化多様性の相互作用
 2―3 包括的再生
   (1)包括的再生という思想
   (2)理念的枠組みとしての包括的再生
 2―4 未来の構想

第3章 コウノトリを「ツル」と呼ぶ
 3―1 そこにいたコウノトリ
   (1)一枚の写真が写し込んだもの
   (2)現場の知
 3―2 コウノトリを聞き取る
   (1)コウノトリ歴史資料収集整理等事業
   (2)生き物をめぐる言説
   (3)コウノトリの聞き方
 3―3 語りの中の二つのコウノトリ
 3―4 「ツル」とのかかわり
   (1)害鳥とツルボイ
   (2)鶴山と瑞鳥
   (3)多元的現実としての「ツル」
 3―5 「コウノトリ」とのかかわり
   (1)保護という出来事
   (2)農薬散布と絶滅
   (3)希少性を軸にしたコウノトリとのかかわり
 3―6 コウノトリのかかわりの再生に向けて
   (1)かかわりが存在感を創りだす
   (2)人とコウノトリの多元的なかかわりへ

第4章 コウノトリを地域資源とする
 4―1 自然再生の生活アプローチ
   (1)多元的なかかわりの再生
   (2)生物のシンボル化と環境アイコン
   (3)生き物の地域資源化
 4―2 コウノトリの農業資源化
   (1)コウノトリ育む農法
   (2)コウノトリ育む農家たち
   (3)調査の概要
   (4)育む農法の取り組み状況
   (5)育む農法に取り組む意識
   (6)生き物へのかかわり
   (7)コウノトリとのかかわり
   (8)コウノトリ育む農法の社会的評価
 4―3 コウノトリの観光資源化
   (1)観光資源化
   (2)調査方法
   (3)郷公園来園者の特性
   (4)コウノトリ観光客の行動と特性
   (5)考察
   (6)観光による地域資源のマネジメント
 4―4 野生復帰の「物語化」
   (1)試行錯誤を保証する柔軟な社会的仕組み
   (2)物語の曖昧さ

第5章 「野生」を問い直す
 5―1 問題としての「野生」
   (1)一羽のヒナの巣立ちから
   (2)「関与」としての給餌
   (3)「野生」問題
 5―2 コウノトリの野生復帰における「野生」の定義
 5―3 人と動物のかかわりとしての家畜化-再野生化
 5―4 コウノトリ保護史再考
 5―5 ゆらぐ「野生」
   (1)自立促進作戦
   (2)給餌の論理
   (3)給餌からの段階的脱出
 5―6 「ほっとけない」からの給餌
   (1)市民による給餌
   (2)給餌から市民調査へ
 5―7 「野生」とは何か
   (1)給餌と「野生」の曖昧な関係
   (2)曖昧な「野生」による価値創出
   (3)「野生」を飼いならす柔軟な仕組みへ

第6章 小さな自然を再生する
 6―1 小さな自然再生
 6―2 小さな村の大きな出来事
   (1)コウノトリが選んだ村
   (2)小さな自然再生によるコウノトリの生息地づくり
   (3)試行錯誤による小さな自然再生
   (4)小さな自然再生を成り立たせる要件
 6―3 コウノトリの生息地づくりへの村人の思い
 6―4 コモンズとしての自然
   (1)複数の生業を組み合わせる
   (2)生成するコモンズ
   (3)コモンズの衰退
 6―5 重層する田んぼへの思い
   (1)村という管理主体への信頼
   (2)村を維持する選択肢としてのコウノトリ
 6―6 小さな自然再生の多元的な価値
   (1)共同性と公共性の交錯
   (2)小さな自然再生におけるレジリアンス
 6―7 物語の「生活化」

第7章 レジデント型研究者として生きる
 7―1 現場の力
 7―2 フィールドからの問い
 7―3 レジデント型研究
   (1)環境問題の解決主体と知識生産
   (2)レジデントと研究をつなげる方法
 7―4 野生復帰に向けた知識生産と社会実践
   (1)人とコウノトリの再構成と社会的選択肢
   (2)人びとからの問いによる自己変容
   (3)「野生」問題
   (4)給餌をめぐる研究者と市民
   (5)「聞く」という手法と再帰的な当事者性
   (6)小さな自然再生へのかかわり
   (7)当事者性の変化
 7―5 方法としてのレジデント型研究
 7―6 可能性としてのレジデント型研究者
   (1)レジデント型研究者と持続可能な地域形成
   (2)訪問型研究者とレジデント型研究者
 7―7 レジデント型研究者の活動事例
   (1)レジデント型研究者の多様性
   (2)WWF サンゴ礁保護研究センター
   (3)北広島町立 芸北 高原の自然館
 7―8 レジデント型研究者の多面的役割
   (1)レジデント型研究者の六つの役割
   (2)重層的・循環的なレジデント型研究者の活動
   (3)レジデント型研究者としての私
   (4)地域への住み着き方としてのレジデント型研究者

終章 はざまをつなぐ

参考文献
あとがき
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