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産業遺産の記憶と表象

「軍艦島」をめぐるポリティクス

木村 至聖

A5上製・294頁

ISBN: 9784876985463

発行年月: 2014/12

  • 本体: 3,500円(税込 3,850円
  • 在庫あり
 
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内容

軍艦島 独特の景観を持つ廃墟は,国家にとっては近代化の威信の証し,地域にとってはアイデンティティの源泉,時には失われたものへのロマンティシズムの対象として扱われ,そして今や人類的な歴史遺産となろうとしている。産業遺産をめぐる重層的な「表象実践」(意味づけと活用の営み) を世界の炭鉱遺産の比較の中で論じる好著。

書評

『社会学評論』Vol.66 No.3/2015、438-440頁、評者:松浦雄介氏
『フォーラム現代社会学』第15号(2016)、129-131頁、評者:荻野昌弘氏
『ソシオロジ』185, 第60巻第3号(2016年2月)、143-152頁、評者:今井信雄氏

プロフィール

木村 至聖(きむら しせい)
甲南女子大学人間科学部准教授
1981年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学,日本学術振興会特別研究員等を経て,現職。博士(文学)。専門は文化社会学,地域社会学。
主要著作に,
「産業遺産の表象と地域社会の変容」(『社会学評論』60(3),2009年),「権力と主体形成―M. フーコー『監獄の誕生』(1975)」(井上俊・伊藤公雄編『社会学ベーシックス 第9巻 政治・権力・公共性』世界思想社,2011年),『文化遺産と記憶の社会学―旧産炭地域における産業遺産の保存と活用をめぐって』(京都大学博士学位論文,2011年),など。

目次

はじめに――軍艦島との出会い
序章 「遺産」化現象と現代社会
   一 産業遺産/近代化遺産への関心の高まり
   二 文化遺産をめぐる社会的プロセス――本書の視点
     (一)社会科学分野における先行研究
     (二)文化遺産の社会的機能と再帰性の高まり
     (三)専門家システムとしての文化遺産
   三 社会的空間における表象実践――本書のキー概念と構成

第一部 文化遺産とその表象

1章 文化遺産とは何か
   一 制度としての遺物――「文化財」と「文化遺産」
     (一)諸価値の複合
     (二)歴史的な変化
     (三)脱文脈化と序列化
   二 国家の装置か住民にとっての環境か?
     (一)「装置」としての文化遺産
     (二)「環境」としての文化遺産
   三 文化遺産をとりまく様々なスケール
     (一)国家の装置――ナショナル・スケールにおける文化遺産
     (二)「資源」としての市場化――グローバル・スケールにおける文化遺産
     (三)多様な「記憶」の物語――ローカル・スケールにおける文化遺産
2章 廃墟から文化遺産へ
   一 「痕跡」としての文化遺産/廃墟
   二 廃墟の発見
     (一)〈ピクチャレスク〉としての廃墟の美
     (二)風景式庭園における廃墟の囲い込み
     (三)過去への意識の目覚め
   三 文化遺産の誕生
     (一)写真術と帝国主義
     (二)博物館的秩序の創出
     (三)国家のイデオロギー装置としての文化遺産
   四 文化遺産の変容
     (一)現代の文化遺産イデオロギー
     (二)文化遺産イデオロギーのはらむリスク
3章 労働文化の文化遺産化とその問題
   一 「文化」としての炭鉱への注目
     (一)脱工業化後の西欧社会における文化政策
     (二)「遺産産業批判」をめぐって――言説としての文化遺産
   二 世界遺産と産業遺産
   三 労働文化の遺産化とその実態
     (一)事例1――アイアンブリッジ峡谷
     (二)事例2――ロンダ・ヘリテージパーク
   四 労働文化をめぐる「スケールの政治」

第二部 炭鉱の記憶と遺構
  
4章 日本の産炭地の経験をめぐって
   一 地域社会という問題領域
     (一)地域社会の位置づけ
     (二)工業化/脱工業化の最前線としての炭鉱社会
   二 旧産炭地域の空間類型
     (一)産炭地域を規定する自然条件
     (二)日本の炭鉱集落の特性
   三 日本の炭鉱史
     (一)明治以降の炭鉱開発――炭鉱社会の形成
     (二)「追われゆく坑夫たち」――戦中・戦後の石炭政策
     (三)残された「旧産炭地」――企業撤退後の諸問題
     (四)炭鉱における「負の記憶」
   四 国策としての進出と撤退――炭鉱社会研究の立脚点
5章 炭鉱遺構・遺物の展示と表象――歴史と事例
   一 博物館展示の分析から
   二 海外における石炭産業・炭鉱社会の表象
     (一)イングランド国立炭鉱博物館
     (二)ビッグピット国立石炭博物館
     (三)ドイツ鉱山博物館
   三 国内における石炭産業・炭鉱社会の表象
     (一)国内ミュージアムの事例と概要
     (二)筑豊炭田のミュージアム――「記念館」と「資料館」
        ①「記念館」型
        ②「資料館」型
     (三)石狩炭田のミュージアム――観光施設としての役割
     (四)三池炭田のミュージアム――「産業遺産」以後のミュージアム
   四 「結果」としてのナショナリズム
補論 文化遺産保存の場における記憶のダイナミクス――社会学的記憶論の再検討を通じて
   一 社会学的記憶論の再検討
     (一)社会学的記憶論の起源――ベルグソンからアルヴァックスへ
     (二)「記憶」の問題化
     (三)構築主義的記憶モデルの問題点
   二 ベンヤミンの記憶論
     (一)ベンヤミンの記憶論――近代社会における経験の記憶
     (二)社会学的対象としての「記憶痕跡」
   三 「廃墟ブーム」にみる無意志的記憶のあらわれ
   四 現代社会における無意志的記憶――モノが提示する可能性
   五 「痕跡」としての産業遺産

第三部 軍艦島――日本の産業遺産と「地元」住民による表象実践

6章 「軍艦島」への多様なまなざし
   一 端島=軍艦島の概要
   二 軍艦島をめぐるまなざしの政治学
     (一)まなざしの重層性
     (二)まなざしの多様性
        ①故郷としての軍艦島
        ②研究対象としての軍艦島
        ③「負の遺産」としての軍艦島
        ④廃墟としての軍艦島
        ⑤産業遺産としての軍艦島
        ⑥観光資源としての軍艦島
     (三)「地元」としての軍艦島
        ①高島町の場合
        ②野母崎町の場合
   三 まなざしのヘゲモニーをめぐる葛藤――「装置」と「環境」
7章 「地元」の創出――軍艦島と地域社会
   一 軍艦島の「地元」――高島町の盛衰
     (一)炭鉱コミュニティの成り立ち
     (二)炭鉱閉山後の高島
     (三)軍艦島の取得と長崎市への合併
   二 軍艦島の活用へ――取り組みの経緯
     (一)検討期(二〇〇一年五月~二〇〇三年二月)
     (二)葛藤期(二〇〇三年二月~二〇〇四年五月)
     (三)準備期(二〇〇四年五月~二〇〇五年一月)
     (四)活用期(二〇〇五年一月~二〇〇七年一二月)
   三 資源利用の正統性――「地元」意識の生成
8章 地域社会における軍艦島の活用
   一 軍艦島ガイドツアー
     (一)高島における軍艦島活用の試み
        ①ツアーの概略
        ②参加者の反応
     (二)軍艦島上陸解禁後のツアー
     (三)上陸解禁前後におけるツアーの変化
   二 軍艦島を「語る」人々
     (一)X氏の場合
     (二)Y氏の場合
     (三)ガイドの表象戦略と課題
   三 正統性の獲得=語り手の主体形成と物語の洗練
9章 リスケーリングされる炭鉱の表象
   一 「九州・山口の近代化産業遺産群」が表象するもの
     (一)「遺産群」提案の経緯と概要
     (二)構成資産とその変化
   二 地域ごとの社会的文脈と葛藤
     (一)三池炭田
     (二)崎戸・高島炭田
     (三)筑豊炭田
   三 表象のリスケーリングと地域社会
     (一)シリアルノミネーションの功罪
     (二)リスケーリングされる炭鉱の表象
終章 産業遺産は社会に何をもたらすのか
   一 文化遺産システムのリスクとその揺らぎ
   二 処方箋としての表象実践
   三 本書の事例が示唆する可能性と課題
     (一)「遺産」化される物語の複数性
     (二)新たな共同性の模索

参考文献
軍艦島関連書籍リスト
初出一覧
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