ホーム > 書籍詳細ページ

環境人間学と地域

人新世を問う

環境、人文、アジアの視点

寺田 匡宏、ダニエル・ナイルズ 編著

A5上製・500頁

ISBN: 9784814003174

発行年月: 2021/03

  • 本体: 5,700円(税込 6,270円
  • 在庫あり
 
  • mixiチェック

内容

20世紀後半からの環境破壊・変動の大加速、そして露わになってきた「地球の限界」。人新世という新たなメタファーは、人類の優位だけでなく危機を示している。研究者たちは、破壊でも後退でもない新時代を乗り越える新たな道をアジアに探し求めた。西洋の刻印を相対化し、「人新世」を問い直す。

プロフィール

〈編者〉
寺田匡宏 Masahiro Terada(序章,コラム1,第8章)
総合地球環境学研究所客員准教授。人文地球環境学,歴史学。歴史という人間中心の概念が非-人間を扱う環境とどう関係するかを研究。メタヒストリーという記述の立場から,超長期の過去である人新世(アンソロポシーン)と未来史に関心を持つ。著書に,『人文地球環境学――「ひと,もの,いきもの」と世界出来』(あいり出版,2021年),『カタストロフと時間――記憶/語りと歴史の生成』(京都大学学術出版会,2018年),『人は火山に何を見るのか――環境と記憶/歴史』(昭和堂,2015年),『災厄からの立ち直り――高校生のための〈世界〉に耳を澄ませる方法』(編著,あいり出版,2016年)ほか。「叢書・地球のナラティブ」(あいり出版,2019年〜)のシリーズ・エディターもつとめる。国立歴史民俗博物館COE研究員,国立民族学博物館外来研究員,マックスプランク科学史研究所客員研究員を歴任。マックスプランク科学史研究所共同研究「人新世における/の知」メンバー。
 
ダニエル・ナイルズ Daniel Niles(序章,コラム1,第4章,コラム2)
総合地球環境学研究所准教授。人間と環境に関する地理学を研究。異なった環境の知識が農業実践,物質文化,土地にどのように埋め込まれ,どのように転移するかを研究。とりわけ,農業遺産に着目し,長年の歴史的知識が人新世の現代的諸課題にどう適応しうるかに関心を持つ。マックスプランク科学史研究所客員研究員(2016,2017年),カリフォルニア大学バークレイ校客員研究員(2012,2018年),タイ農業省・国際連合食糧農業機関(FAO)世界農業遺産コンサルタント(2018年)を歴任。論文に「自然の経験と科学」(立本成文と共著,『ネイチャー・サステイナビリティ』2018年,英文),「人新世における農業遺産とその保存」(『オックスフォード・ハンドブック 遺産学』オックスフォード大学出版局,2018年,英文),「文化遺物ではなく生きた知識としての伝統農業の保存」(R・ロスとの共著,『資源と生態』2016年,英文)ほか。
 
〈執筆者〉(執筆順)
杉原薫 Kaoru Sugihara(第1章)
総合地球環境学研究所特任教授,プログラムディレクター。経済史。大阪市立大学(1978\_h-\/1985年),ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(1985〜1996年),大阪大学(1996〜2006年),京都大学(2006〜2012年),東京大学(2012〜2013年),政策研究大学院大学(2013〜2016年)を経て2016年より現職。日本経済史,アジア経済史,グローバル経済史に関する著作として『アジア間貿易の形成と構造』(ミネルヴァ書房,1996年),『日本・中国・アジア国際経済の成長,1850〜1949年』(編著,オックスフォード大学出版局,2005年,英文),『グローバル・ヒストリーのなかの労働集約型工業化』(ラウトリッジ,2013年,英文),『世界史のなかの東アジアの奇跡』(名古屋大学出版会,2020年)などがある。2007〜2012年には,京都大学におけるプロジェクト「生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点」の代表者を務め,アジアとアフリカにおける環境の持続可能性を探った。日本学術会議委員(2011〜2017年),同「フューチャー・アースの推進に関する委員会」副委員長(2013〜2020年)。ケンブリッジ大学出版局発行の学術ジャーナル『グローバル・サステイナビリティ』のセクション・エディターも務める。
 
ステファン・グルンバッハ Stéphane Grumbach(第2章)
フランス国立情報学・オートメーション研究所上級研究員。データシステム専門家として情報処理に関する研究を行い,DNAシークエンシングの圧縮アルゴリズムを最初にデザインした経歴を持つ。コンピュータ・サイエンスの視角からデジタルシステムの社会への長期にわたるインパクトに関する問題にも傾注し,社会経済的レベルや地政学的レベルにおいて,管理システムやパワー・バランス,情報の非対称性が駆動される要因と様態を研究。環境問題認識の深化とデジタル化の並行を人新世の基礎的条件として分析した論文として「デジタル進化か,人新世的フィードバックか」(https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/2053019617748337,英文)や「人間は地球といかに共存しうるか――サブ・オプティマル・システムの問題」(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2213305420300114,英文)。中国ヨーロッパITラボLIAMA(北京)ディレクター,複雑系システム研究所IXXI(リヨン)ディレクターを歴任。総合地球環境学研究所招聘外国人研究員(2018年度)。パリ政治学院でデジタル・エコノミーも講じる。
 
ソーラット・ホンラダロン Soraj Hongladarom(第3章)
タイ・チュラロンコン大学教授。同大学科学技術と社会研究センター所長。タイ哲学宗教学会会長。哲学。生命倫理,コンピューター倫理,発展途上国における科学技術などを研究。科学技術がいかに非西欧社会の人々の生活世界に浸透し,その中からいかなる倫理が導かれるか,情報技術,とりわけタイの教育現場におけるその活用に関して研究を続ける。情報における倫理の東洋哲学による解釈の問題にも傾注。著書に『プライバシーの仏教論理』(シュプリンガー,2015年,英文),『オンライン自我――外部性・友情・ゲーム』(シュプリンガー,2016年,英文),『AIとロボティクスの仏教倫理』(レキシントン,2020年,英文)など。
 
エミリー・セキネ Emily Sekine(第5章)
編集者,ライター。ニュースクール大学(米国)で人類学の博士号を取得。人間と自然の関係が研究テーマ。特に、地震と火山をめぐる日本文化への関心が深い。これまでヴェンナー・グレン財団,アメリカ国立科学財団,国際交流基金,日本学術振興会から研究助成を受けた。現在は人類学に関するデジタル雑誌『サピエンス』の文化と言語部門の編集者(ディヴェロプメンタル・エディティング担当)。
 
オギュスタン・ベルク Augustin Berque(第6章)
1942年モロッコ生まれ。フランスの地理学者,東洋学者,哲学者。1969年パリ大学地理学第三課程博士号,1977年文学博士(国家博士)号を取得。1979年よりフランス国立社会科学高等研究院教授(風土論),現在同院名誉教授。欧州学士院会員。2009年福岡アジア文化賞大賞,2011年国際交流基金賞,2015年旭日中綬章,2017年京都地球環境の殿堂入り,2018年コスモス国際賞など受賞多数。著書に『風土の日本――自然と文化の通態』(篠田勝英訳,ちくま学芸文庫,1992年),『風土としての地球』(三宅京子訳,筑摩書房,1994年),『地球と存在の哲学――環境倫理を越えて 』(篠田勝英訳,ちくま新書,1996年),『風土学序説――文化をふたたび自然に,自然をふたたび文化に』(中山元訳,筑摩書房,2002年),『風景という知――近代のパラダイムを超えて』(木岡伸夫訳,世界思想社,2011年),『理想の住まい――隠遁から殺風景へ』(鳥海基樹訳,地球研和文学術叢書,京都大学学術出版会,2017年),『風土学はなぜ,何のために』(木岡伸夫訳,関西大学出版部,2019年),『ベルク「風土学」とは何か――近代「知性」の超克』(川勝平太との共著,藤原書店,2019年)など多数。
 
サンデル・ファン・デア・ルー Sander van der Leeuw(コラム2)
考古学,歴史学。社会的・環境的課題,技術,イノベーションに複雑適応系をパイオニア的に応用。1991\_h-\/2000年には,このアプローチを用いた南欧に関する世界初の国際学際研究プロジェクトARCHAEOMEDESのリーダーをつとめる。アムステルダム大学,ライデン大学,ケンブリッジ大学,パリ(ソルボンヌ)大学で教鞭をとる。アリゾナ州立大学人間進化社会変動学部をディレクターとして創立し,持続可能性学部で学部長を務める。AAASフェロー,地球研名誉フェロー,サンタフェ研究所客員フェロー,オランダ王立科学芸術アカデミー連携会員。フランス大学研究院会員。2012年には国連環境計画の「科学とイノベーションのための地球大賞」受賞。著書に『地中海における環境劣化と砂漠化に関する自然科学的考古学的研究――アルキメデス・プロジェクト報告書』(編著,ヨーロッパ連合,オープン・アクセス,1998年,英文),『社会変化とイノベーションに関する複雑系システム研究』(D・A・レイン,D・プマン,G・ウェストとの共著,シュプリンガー,2009年,英文),『社会の持続可能性のこれまで,これから――地球の生き残りのために意図せぬ帰結をどう避けるか』(ケンブリッジ大学出版局,オープン・アクセス,2019年,英文)ほか。
 
ロハン・デスーザ Rohan D'Souza(第7章)
京都大学大学院アジアアフリカ地域研究研究科准教授,サセックス大学世界環境史研究所上級助手。環境史,技術論,気候変動を研究。著書に『溺れと堰き止め――東部インドにおける植民地的資本主義と氾濫管理』(オックスフォード大学出版局,2006年,英文)。査読付きジャーナルや新聞にも寄稿多数。現在は,環境政策のフレームワークが「人新世」においていかに変容するかについての研究に従事。
 
クラパトン・チャカネツァ・マブフンガ Clapperton Chakanetsa Mavhunga(コラム3)
マサチューセッツ工科大学准教授。STSを専門とする。科学,技術,イノベーション,起業に関する歴史,理論,実践をアフリカに中心をおいたグローバルな視点から研究。アフリカにおける持続可能な未来のための知識生産と制度構築のための調査活動も。批評的思想家,実践者を自認。ミシガン大学での博士号取得を経て2008年にMIT助教に。ジンバブエの農村地域において在地での既存の取り組みを生かした学際的問題解決組織「リサーチ||デザイン||ビルド」を設立。近著に『移動工房――ツェツェバエとアフリカ型知識生産』(MIT出版局,2018年,英文)。『流動的職域――ジンバブエにおける生活世界のイノベーション』(MIT出版局,2014年,英文)で,ヨーロッパ環境史学会のトゥルク賞,アフリカ学協会のヘルスコヴィッツ賞を受賞。編著『アフリカ発の科学,技術,イノベーションを問う』(MIT出版局,2017年,英文)では考古学,歴史学,哲学,人類学,STS,工学,開発学,政策学の視点からアフリカにおける科学,技術,イノベーションを再考。『ソーシャルテクスト』(デューク大学),『歴史と技術』(ラウトリッジ),『トランスファーズ』(ウェズレーアン大学),『南アフリカ学研究』などにも論文が掲載されている。
 
マティアス・シェメル Matthias Schemmel(第9章)
マックスプランク科学史研究所上級研究員。ハンブルク大学と南京大学において物理学と天文学を専攻(1997年に修士号),ベルリン・フンボルト大学において歴史学の博士号を取得(2006年)。1997年よりマックスプランク科学史研究所にて,知識の変化を中心とした科学史研究に従事し,20世紀における物理学と隣接分野の知識の再編成,近世ヨーロッパの知識体系の変容,中国を中心とした古代社会における理論科学の出現,ヨーロッパと中国における知識の伝播などを研究。ベルリン工科大学,ベルリン・フンボルト大学,スイス・ベルン大学,ベネチア・カ・フォスカリ大学で教鞭をとる。2008〜2012年には,長期にわたる空間概念の発展に関する学際的研究のグループ・リーダーをつとめた。著書に,『イギリスのガリレオ――前古典的力学の事例としてのトーマス・ハリオットの物体の運動研究』(シュプリンガー,2008年,英文),『伝達と理解――「奇器図説」の研究と校注』上下(張柏春,田淼,ユルゲン・レン,ペーター・ダメローと共著,江蘇科学技術出版社,2008年,中文),『空間に関する歴史的視点からの認識論――類人猿の認知から時空物理学まで』(シュプリンガー,2016年,英文)ほか。
 
クリストフ・ロゾル Christoph Rosol(第10章)
マックスプランク科学史研究所研究員(ドイツ,ベルリン),世界文化会館(ドイツ,ベルリン)共同研究員。両機関による共同事業である「人新世プロジェクト」,「テクノスフェア」プロジェクト,「人新世カリキュラム」において構想と実施の中心を担う。また,マックスプランク科学史研究所の共同研究「人新世における/の知」のリーダーをつとめる。気候科学と地球システム科学の長期の歴史と技術基盤,知識基盤について研究。

目次

はじめに

序章 人新世(アンソロポシーン)をどう考えるか
――環境をめぐる超長期的時間概念の出現とグローバルな地球システム科学ネットワークの展開
[寺田匡宏、ダニエル・ナイルズ]
コラム1[フォーカス]人新世をめぐる六つの問い

第一部 人新世(アンソロポシーン)による地球と地域の塑型――レジーム/ガバナンス
第1章 人新世における複数発展径路――モンスーン・アジアの資源と生存基盤をめぐって
[杉原薫]
第2章 デジタル・コントロールと地球のエコシステム――東アジア発・人新世的ガバナンスは可能か
[ステファン・グルンバッハ]
第3章 人新世と物質的解釈学――タイ大洪水に組み込まれた政治
[ソーラット・ホンラダロン]

第二部 人新世における感性/経験
第4章 炭焼きの森――エコロジー、美学、人新世
[ダニエル・ナイルズ]
第5章 まずは火山を愛すること――日本における地質学的親近感の形成
[エミリー・セキネ]
第6章 「地」性の復権――日本における自然農法の哲学と実践
[オギュスタン・ベルク]
コラム2[ダイアローグ]ものの秩序――テクノスフェアとアジアの感性
[ダニエル・ナイルズ/サンデル・ファン・デア・ルー]

第三部 歴史言説としての人新世
第7章 炭素の森と紛争の河――南アジアの歴史叙述から見た人新世
[ロハン・デスーザ]
第8章 人新世と「フォース(力)」――歴史における自然、人為、「なる」の原理とその相克
[寺田匡宏]
コラム3[ヴォイス]だれの?――アフリカからの問い/一つの詩
[クラパトン・チャカネツァ・マブフンガ]

第四部 知識システムへの問いとしての人新世
第9章 科学のグローバル・ヒストリーから見る人新世
[マティアス・シェメル]
第10章 知の共通基盤に向かって――「人新世カリキュラム」という実験
[クリストフ・ロゾル]

初出一覧
索引
英文要旨、英文著者紹介
著者紹介
このページの先頭へ