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アフリカから農を問い直す

自然社会の農学を求めて

杉村 和彦・鶴田 格・末原 達郎 編

A5上製, 478 pages

ISBN: 9784814004638

pub. date: 02/23

  • Price : JPY 4,500 (with tax: JPY 4,950)
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内容

私たちが暮らす現代産業社会の源流は,古代の食料生産革命から生まれた「アグラリアン社会」(農業社会)にある。すなわち高い農業生産性を誇るが,その生産法は大量の水と肥料を必要とし,しかも環境変動に対して極めて脆弱な単作(モノカルチャー)が卓越する。この「アグラリアン社会」に由来するシステムと思考が,豊かな森林を破壊し地球規模の環境危機を引き起こしている。ではどうすればよいのか。食料生産革命を経験しない「自然社会」として多様で豊かな農と食を育んできたアフリカに学ぶことで,精神のモノカルチャーと化した現代社会の行き詰まりを解決する術を探る。

受賞

2023年度 地域農林経済学会特別賞

書評

「京都新聞」2023年4月6日 朝刊 文化面
「アフリカレポート」 2023年61巻、54頁、評者:佐藤千鶴子氏
https://www.jstage.jst.go.jp/article/africareport/61/0/61_54/_html/-char/ja
「アジア・アフリカ地域研究」2023年 第23-1号、129-134頁、評者:黒田末壽氏

プロフィール

(*は編者)

足達太郎
東京農業大学国際食料情報学部・教授
東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了、博士(農学)
主な著作に、『国際農業開発入門』(筑波書房、2017年、共著)、『アフリカ昆虫学』(海游舎、2019年、共編著)、『農学と戦争』(岩波書店、2019年、共著)、『熱帯作物学』(朝倉書店、2022年、共著)など。

池上甲一
近畿大学・名誉教授
京都大学大学院農学研究科博士後期課程単位取得退学、農学博士
主な著作に、『現代社会と食の多面的機能』(英明企画編集、2022年、責任編集)、『アグリビジネスと現代社会』(筑波書房、2021年、共著)、『農の福祉力』(農山漁村文化協会、2013年、単著)など。

泉 直亮
目白大学社会学部・専任講師
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了、博士(地域研究)
主な著作に、『遊牧の思想――人類学がみる激動のアフリカ』(昭和堂、2019年、共著)、『争わないための生業実践――生態資源と人びとの関わり』(京都大学学術出版会、2016年、共著)など。

小松かおり
北海学園大学人文学部・教授
京都大学大学院理学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(理学)
主な著作に、『バナナの足、世界を駆ける』(京都大学学術出版会、2022年、単著)、『食と農のアフリカ史――現代の基層に迫る』(昭和堂、2016年、共編著)など。

坂梨健太
京都大学大学院農学研究科・准教授
京都大学大学院農学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(農学)
主な著作に、『アフリカ熱帯農業と環境保全――カメルーンカカオ農民の生活とジレンマ』(昭和堂、2014年、単著)、『No Life, No Forest――熱帯林の「価値命題」を暮らしから問う』(京都大学学術出版会、2021年、共著)など。

*末原達郎
京都大学・名誉教授、龍谷大学・名誉教授
京都大学大学院農学研究科博士後期課程単位取得退学、農学博士
主な著作に、『人間にとって農業とは何か』(世界思想社、2004年、単著)、『文化としての農業 文明としての食料』(人文書館、2009年、単著)、『赤道アフリカの食糧生産』(同朋舎、1990年、単著)など。

*杉村和彦
福井県立大学学術教養センター・教授
京都大学大学院農学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(農学)
主な著作に、『アフリカ農民の経済――組織原理の地域比較』(世界思想社、2014年、単著)、『食と農を学ぶ人のために』(世界思想社、2010年、共編著)、Rethinking African Agriculture : how non-agrarian factors shape peasant livelihoods(Routledge、2020年、共編著)など。

杉山祐子
弘前大学人文社会科学部・教授
筑波大学大学院歴史・人類学研究科博士課程単位取得退学、博士(地域研究)
主な著作に、『サバンナの林を豊かに生きる』(京都大学学術出版会、2022年、単著)、『地方都市とローカリティ―弘前・仕事・近代化―』(弘前大学出版会、2016年、共編著)など。

*鶴田 格
近畿大学農学部・教授
京都大学大学院農学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(農学)
主な著作に、Rethinking African Agriculture : how non-agrarian factors shape peasant livelihoods(Routledge、2020年、共編著)、『食と農のアフリカ史 現代の基層に迫る』(昭和堂、2016年、共著)など。

山根裕子
名古屋大学農学国際教育研究センター・国内客員研究員
京都大学大学院農学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(農学)
主な著作に、『アフリカ地域研究と農村開発』(京都大学学術出版会、2011年、共著)、「人類の食の特徴と食と農業の現代的課題」(『農学国際協力』18:2-17、2020年)、「脱近代化社会の実現へ向けた農学および農業技術支援のあり方」(『国際開発研究』28(1):39-52、2019年)など。

目次

アフリカの可能性を世界に活かすために――はしがき

第1部 アフリカ農業から何を学ぶか

第1章 序論:アグラリアン・バイアスを超えて [杉村和彦・鶴田 格・末原達郎]
1 「笑度計」と豊かさ――アフリカは本当に貧しいのか
2 近代化を拒否するアフリカ農村
3 開発をめぐるパラダイム転換
4 アフリカ農民・農村のユニークネス――自然社会の視点
5 現代アフリカ農村に残る自然社会の要素
6 現代アフリカ農村におけるサブシステンス経済の変容
7 アフリカから学ぶ――発展幻想からの離脱
8 本書の構成

コラム1 イヴァン・イリイチの思想とサブシステンス [鶴田 格]
コラム2 情の経済とモラル・エコノミー [鶴田 格]

第2章 アフリカ農業の環境史観
――遊動する農業とその起源 [足達太郎]
1 農業の歴史はどうとらえられてきたか
2 アフリカ農業の生態学的特徴
3 国家に捕捉されない農業と生態系
4 アフリカ農業史が問いかけるもの

コラム3 スコットによる国家に捕捉されない農民論 [鶴田 格]
コラム4 遊動型農業の可能性 [足達太郎]

第3章 アフリカ農業・農村開発の失敗学 [鶴田 格・山根裕子・杉村和彦]
1 失敗学の視点
2 植民地期の地域開発の失敗事例
3 ウジャマー集村化政策の失敗学
4 近年の農村・農業開発計画の失敗事例
5 アフリカ的共同体への二重の錯誤

第2部 アフリカ農業・農村の特性把握

第4章 流動性と開放性
――コンゴ盆地熱帯雨林の移動性とエキステンシブネス [小松かおり]
1 移動する農民
2 コンゴ盆地の移動社会
3 コンゴ盆地の農
4 移住と生業
5 カメルーン東南部における流動性の事例
6 移動性とエキステンシブネス

第5章 生業の複合性と多様性
――熱帯アフリカの多生業 [坂梨健太]
1 農業中心主義の現代
2 農業中心主義のなかの農民と多生業研究の動向
3 自然社会の多生業――自然利用と移動
4 カメルーン南部におけるファン(Fang)の多生業
5 農業中心主義を越える

コラム5 生業の複合と相互転換 [鶴田 格]

第6章 農法や作物の非画一性
――農耕の多様性がもたらすサブシステンスの安定 [山根裕子・杉村和彦]
1 混作と単作をめぐる視座
2 熱帯雨林下の混作――コンゴ民主共和国(旧ザイール)の事例
3 サバンナの山地における多様な農業――ウルグル山地の事例
4 サブシステンスのための環境利用としての混作
―ウルグル山地北側斜面の原始的に見える農業
5 混作を背景として成り立つ豊かな食
―ウルグル山東側斜面のホームガーデン(ジャララ)
6 多様な農業とサブシステンスの論理

コラム6 地球環境問題と混作研究の意義 [山根裕子・杉村和彦]

第7章 分与の経済と食の安定
――生きる場におけるなりわいとしての農 [杉山祐子]
1 農業の市場経済化が不可視化する、なりわいとしての農のすがた
2 生業複合における農と長期的な食料確保をめざす生計戦略
3 ベンバの生業複合と平準化機構
4 変動する世帯構成と世帯の再編による食料確保
5 分与の経済と現金経済の接合
6 捕捉されない農民像は分与する農民像

コラム7 サーリンズの過少生産論と交換論 [鶴田 格]

第8章 富の蓄積と再生産
――東アフリカ農牧社会における財と家族 [泉 直亮]
1 アフリカ農村社会と土地
2 「農」と「牧」が混在する世界
3 東アフリカ牧畜社会における財としての家畜
4 農牧民スクマ社会における財と世帯
5 東アフリカ農牧社会における財の特質とその変遷

コラム8 カール・ポランニーと形式主義/実体主義論争 [鶴田 格]

第3部 近代農学とアフリカの農

第9章 イデオロギーとしての近代農学の形成 [末原達郎]
1 アフリカ農村での経験から
2 発展と農業革命
3 西欧の農学と日本の農学

第10章 国家農学と小農の対応 [池上甲一]
1 国家の暴力と「国家農学」
2 モザンビークのプロサバンナ事業に見る国家農学の暴力性
3 タンザニアのローア・モシ灌漑事業の光と影
4 グローバル・フードガバナンスにおける国家農学と開発援助・協力
5 国家農学の本質を探る――日本の経験から
6 アフリカ農民の生き残り戦略と将来

第4部 自然社会の農学

第11章 農業イノベーションのアフリカ的特質 [鶴田 格]
1 アフリカ的なイノベーションを捉えるための視点
2 既存の経済学・農学は農業イノベーションをどうとらえてきたか
3 アフリカ農業の多様性
4 アフリカ農業の集約化と多様性
5 社会に埋め込まれたイノベーション
6 非アグラリアン社会のイノベーション

第12章 自然社会の農学へ向けて [杉村和彦]
1 現代につながる農業世界――古代メソポタミアの世界の視界
2 多様性を耕す――近代農学パラダイムとアフリカ農村
3 エスノサイエンスとしての近代農学
4 「緑の革命」を拒否する世界――自然社会とアグラリアン社会の間
5 自然社会の農学へ向けて

コラム9 緑の革命とヴァンダナ・シヴァ [山根裕子・杉村和彦]

終章 アフリカから農を問い直す [杉村和彦・鶴田 格・末原達郎・池上甲一]
1 自然社会の「農」と産業社会の「農業」のあいだ
2 近代農学を超える視座
3 アフリカから学ぶ
4 脱アグラリアンの構想力

コラム10 現代の再小農化(新しい小農)論とチャヤノフの小農論 [池上甲一・鶴田 格]
 
あとがき
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