流域環境学
流域ガバナンスの理論と実践

和田英太郎 監修/谷内茂雄・脇田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥 編

菊上製・564頁・税込 5,616円
ISBN: 9784876987702
発行年月: 2009/03
在庫あり
*推 薦*
本書で提案する「リナックス方式」は,琵琶湖流域での事例研究の成果を,地球上の多様な流域へどのようにつなげていけばよいかという点で,今後の展開が期待できるものである.マクロ‐ミクロリンクについては,いわゆるグローバルとローカルの課題の接点を階層化された流域管理システムに求める視点は新鮮である.
立本成文(総合地球環境学研究所所長)

経済の高度成長期であった1960年前後には,人と自然の関係の総体が劇的に変化した.琵琶湖のダム化が計られ,見返りとして琵琶湖と周辺の総合開発がなされ,長い期間にわたって比較的安定していた琵琶湖の生態系と社会とその相互関係が,大きく変化したのもこの時期である.例えば,かなり狭い範囲に閉じられていた農業濁水問題の自然的・社会的関係も,異質な環境の結合した広範囲に広がり,逆に,異質な空間性が人々の意思疎通阻害の要因となってきた.本書はこれらを具体的に示した点だけにおいても,先ず高く評価できる。さらにこれを基に,地球スケールの地球環境問題などにおいては,さらに多様なスケールと多様な利害関係者の視点から全体像をとらえる必要性のあることを示唆し,あるいは一部論じているものであり,この点も極めて興味深い.
川那部浩哉(琵琶湖博物館館長)

内容

流域の存続が問題となる現代,流域を管理する新しい手法が待ち望まれている。科学の社会的支援,貢献はどのようにして可能か。 琵琶湖−淀川水系を主な事例に社会科学と自然科学,アプローチの違いを超えて協働し,聞き取り調査や安定同位体診断,数理的シミュレーションを通じ,適切な処方箋を示す。

目次

口  絵
はじめに

第1部 流域管理の現状と課題
第1章 環境政策と流域管理
1 流域管理,流域ガバナンスとは何か
2 環境政策の現代的課題と流域管理
3 「流域環境学」構築に向けて
第2章 流域管理の新しい潮流
1 水循環と物質循環
2 エコシステムマネジメント
3 統合的水資源管理
第3章 空間スケールと流域管理
1 流域圏と都市再生
2 国際河川の流域管理
3 流域から地球環境へ
第4章 琵琶湖—淀川水系の課題
1 水田を媒介とした琵琶湖と人間の関係
2 琵琶湖—淀川水系の人工化
3 河川法改正・河川管理と流域ガバナンス
4 流域ガバナンスと面源負荷
ブリーフノート1 琵琶湖—淀川水系:河川管理と環境保全,住民参加

第2部 流域管理とガバナンス
第1章 「階層化された流域管理」とは何か
1 流域の階層性—問題認識の差異と階層間のコンフリクト
2 不確実性とガバナンスを前提とした流域管理
3 順応的管理と流域診断—不確実性への対処とエンパワメント
4 コミュニケーションの豊富化—階層性の克服
5 リナックス方式—流域の個性と多様性に応じたカスタマイズと知のコモンズの形成
ブリーフノート2 環境問題解決のための4つの手法
ブリーフノート3 合意形成をどう考えるか
第2章 農業濁水問題の複雑性:琵琶湖を事例として
1 農業濁水問題と流域管理
2 ミクロスケール:小河川や水路の環境悪化
3 メソスケール:沿岸帯における漁業被害
4 マクロスケール:琵琶湖のレジームシフトの可能性
ブリーフノート4 階層性から見た農業濁水
第3章 流域ガバナンス研究の枠組みと方法
1 琵琶湖の水質問題の全体像
2 面源負荷とは:農業濁水問題の位置
3 文理連携と現場主義:研究の枠組みと方法
ブリーフノート5 琵琶湖総合開発とは

第3部 流域診断の技法と実践
第1章 流域診断の考え方
1 流域診断のコンセプト
2 流域診断の具体的な展開
3 地域に即した流域診断技法の組み合わせとカスタマイズ
ブリーフノート6 流域の望ましい姿とは
第2章 水環境への影響
1 方法論から見た流域管理指標
2 圃場からの濁水の流出—集落から地域社会まで
3 河川の琵琶湖への影響—地域社会から琵琶湖流域まで
4 淀川水系としての視点—琵琶湖流域から淀川流域まで
ブリーフノート7 本書で扱う水質指標と安定同位体指標
第3章 地域社会の変容
1 地域の農業構造変化と後継者問題
2 水環境保全に関わる地域の価値観
ブリーフノート8 指標と要因の注意点

第4部 現場でのコミュニケーション支援
第1章 地域社会と水辺環境の関わり
1 調査地域の概況と利水・排水
2 概念モデルにおける空間構造の検討—稲枝地域を事例に
第2章 住民が愛着を持つ水辺環境の可視化
1 水辺環境について話し合うワークショップ
2 ワークショップの成果にもとづくアンケート調査
ブリーフノート9 流域の環境情報と要因連関図式
第3章 農家の環境配慮行動の促進
1 環境配慮行動の促進に向けた心理学的アプローチ
2 農家の濁水削減行動の促進に向けた実践的な取り組み
3 濁水削減行動に対する農家の意思決定プロセスの検討
4 より実践的な順応的管理に向けて
ブリーフノート10 簡易モニタリングと重層的なコミュニケーション
第4章 ツールとしてのモデル・GIS・シナリオ
1 コミュニケーションのためのモデルとシナリオ
2 複合要因を前提とした固有種の存続評価モデル
3 GISによる階層間のコミュニケーション促進
ブリーフノート11 流域管理におけるシナリオアプローチの現在
第5章 階層間コミュニケーションを促進する社会的条件
1 参加型アプローチが求められる背景
2 参加と社会関係資本に関する研究動向
3 社会関係資本の諸類型と計測をめぐる問題
4 アンケート調査の概要
5 流域管理への参加状況
6 参加行動に影響を与える諸要因
7 参加と社会関係資本に関する計量分析

第5部 流域環境学の発展に向けて
第1章 琵琶湖流域から見えてきた課題
1 コミュニケーション促進のための指標—研究者と社会の関わり
2 琵琶湖—淀川プロジェクトにおける研究者の協働と地域社会との関わり
3 アクションリサーチの実践にむけて
 —農村コミュニティの主体性の論理
ブリーフノート12 異分野連携のためのGISの活用
第2章 淀川下流域と琵琶湖—淀川水系での展開
1 淀川下流域の問題構造と水系データベース
2 琵琶湖—淀川水系のあり方
ブリーフノート13 陸からの負荷と河口域の生態系—大阪湾の貧酸素水塊の解消策
第3章 琵琶湖から地球環境へ
1 流域環境学の展望
2 流域管理とコモンズ・ガバナンス・社会関係資本
 —流域管理における管理主体のあり方
3 海外における実践事例
 —バングラデシュとインドでの地域資源管理
4 国際河川の流域管理課題—メコン川流域
5 流域ガバナンスと持続可能性科学,地球環境問題
ブリーフノート14 流域管理におけるコアとなる考え方—メコン川流域を事例として
ブリーフノート15 地球環境研究の進展と今後の流域研究の展望—琵琶湖—淀川水系を例に

付録地図
用語集
索  引

プロフィール

谷内 茂雄(京都大学生態学研究センター)
田中 拓弥(京都大学生態学研究センター)
陀安 一郎(京都大学生態学研究センター) 
中野 孝教(総合地球環境学研究所)
原  雄一(京都学園大学バイオ環境学部)
脇田 健一(龍谷大学社会学部)
石井励一郎(海洋研究開発機構・地球環境フロンティア研究センター) 
大野 智彦(大阪大学大学院工学研究科,環境・エネルギー工学専攻)
柏尾 珠紀(奈良女子大学大学院人間文化研究科)
加藤 潤三(大阪国際大学人間科学部)
加藤 元海(京都大学生態学研究センター) 
坂上 雅治(日本福祉大学情報社会学部)
杉本 隆成(東海大学海洋研究所)
プリマ・オキ・ディッキ(岩手県立大学ソフトウェア情報学部)
山田 佳裕(香川大学農学部)
和田英太郎(海洋研究開発機構・地球環境フロンティア研究センター)